香る (45)

香る (45)

大学時代、中学生の家庭教師をしていたことがある。新年度から週二回の一年契約であった。中学生の家は郊外の山際にあり、交通の便が悪いため、毎回、家の者が市のバスセンターまで車で迎えに来ていた。30分程かけて家に着くと、学生がいる二階の部屋に上がっていき、10分ほどすると、母親がお茶を持ってくるというのがいつものパターンであった。しかし、一月ほど経つと変化があった。それまで、お茶のみであったのが、一緒に魚のフライを持ってくる様になったのである。 賄い付きの契約ではないが、(秋田でお茶とイブリガッコをだす感じで) その土地独自のお茶受けのようなものかと思い、理由を尋ねる事もなく、数学の問題を解いている…